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「意訳すると、毎晩出会う月と同じくらい好きなあなたと出会って、ずっとそばにいたい。みたいな意味なんだけど」
「へぇ、ちょっと艶っぽいね」
「でしょ、和風でいい感じだよね、俺この和歌気に入ってさ」
気を良くしたのか、壮太がいつになく砕けて笑う。
「ふぅん、いいんじゃない、叙情的でいいと思う。俺たち日本人ですし」
侑介が返すと、わかってらっしゃるなんて言う始末だった。
「でもさぁ、なんで月だったのかね」
笑い終わって落ち着いた壮太が、ふっとそんなことを言う。静かな水の中で、ぷかりと泡を吐き出したような、ささやかな音だった。
「太陽でも花でもいいのにね。それこそ桜なんて、まさに日本て感じなのに」
侑介も、花びらが散るようなゆったりとした音で答える。窓の木枠に顎を乗せると、太陽がすっかり海の向こうに落ちてしまったことに気がついた。海沿いの道に外灯が灯っている。
まだ少し先だろうと思っていた夜は、とっくに頭上を覆っていた。こうなるともはや月の独壇場で、批判めいたことを言うこと痛い、悪いことをしているような気分になる。
「まぁでもね、ほら、月と和歌って古き良き日本人の感性って感じするし」
「まーな。よくわかんないけど、うん」
言葉にも例えられない気持ちをふわっとさせたまま納得した。
「星は? 星はないの?」
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