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月の仲間の話題ならよかろうと思って、侑介は壮太に尋ねた。煌々と睨みを利かせてくる月に媚びてみる。
顎を木枠に預けたまま壮太の方を見れば、さっき見たのと同じ体勢で、缶の飲み口に唇を寄せている。
「んー、あるよ。あるけど少ない。月が綺麗だっていうのは昔からの日本の感性だけど、星が綺麗っていうのは外国から伝わって来た感性なんだって」
「へぇー、そうなの? それは知らなかったわ」
「えーと、’‘月をこそ ながめなれしか星の夜の 深きあはれを 今宵知りぬる’だ。確か。割と有名なやつはね」
和歌のところだけ百人一首の詠み手のような調子で言うものだから、侑介は目を丸くした。壮太は1つも気にしたようではない。
「星ってこんなに綺麗だったんだね、初めて知ったって感じの意味。これが、たしか平家物語のあたりの和歌だったかな」
「すっげ。ずいぶん勉強したじゃん、すげぇよマジで」
「今だけだよ。好きこそものの上手なれだよ。ハマってるからってだけ。冷めたら忘れちゃうよ」
理由をそれぞれに述べて涼しい顔をする。まったりと微笑んでいるのが、ゆっくり時間が流れるこの街の象徴みたいだった。
「再発見って感じ?」
「そう、再発見」
軽く首を傾げながら尋ねると、壮太は静かに頷いて顔を上げた。
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