ガラスの名前

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 氷が打ち付け合う音たちの集合体の中から、瑠璃色に透き通ったガラス瓶を受け取る。  受け取ったガラス瓶は、手に持った瞬間ひやりとした感触を伴って、熱を帯びた手のひらにとすんと重い手ごたえを伝えた。  ガラス玉で蓋をされた瓶の塞ぎ口を、一点に力を込めて軽く押す。プシュッという音を立てて、丸いガラスが群青色の液体の中にその姿を現した。  時の止まったビー玉がぽとりと瓶の中に落ちていって、密閉されていた炭酸がしゅわしゅわと音を立てて瓶の中に花火をはじけさせ、三十六度の夏の熱気の中に溶けて混ざっていく。  夜の闇の中に透明な空気を吐き出して、消えていく。  それを陵介(りょうすけ)はじっと眺めてから、瓶を傾け、一口だけ飲んだ。  その喉仏が上下する様子を一瞬だけ網膜に焼き付け、私は見ていたことに気づかれないように、そっとそっぽを向く。 「ラムネ飲むと、夏が来たって感じしません?」  陵介の手の中で、限りなくクリアに近く、それでいて限りなく青に近い瓶が、祭りのために掲げられたオレンジの提灯の光を透かして薄く光った。
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