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見つめていた蛍がふわり、と闇に浮かんで、それからその光が、ぼんやりとにじんだ。
蛍の身体は熱くない。その身体は冷たく、どこか哀しく、そして柔らかく、囁くように光る。
美花、ともう一度優しく呼ばれて、私は目を閉じた。
鼻緒に擦れた足が痛くて。痛いから、だからひとつぶ涙がこぼれた。
川面から吹く風が、私の頬を少しだけ冷たくする。
今夜、私の幼い恋が終わるのだ。
そしてきっと、この寂しい気持ちを持て余したまま鮮やかに、静かに夏はゆく。
〈END〉
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