線香花火

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煙にむせたふりをして、こほっとひとつ咳をした。そうしたら浴衣の袖で、にじんだ涙を拭くことができる。 花火は私の手の中で小さく揺れて、だから火玉が落ちて、じゅっ、とかすかな音をたてた。 「遼ちゃん次、ちょうだい」 ほら、と渡してくれた線香花火は、思っていたよりも少しだけ長く、私たちの間を明るくしてくれた。 「きれいだな」と呟いた遼太郎の声に、うん、と返した私の小さな声は、ちゃんと聞こえただろうか。 ふっ、と静かになって、気がつくと遠くから祭り囃子と太鼓の音だけが響いていた。
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