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第13章 どしゃ降りの中、全力
頭の奥がへんな風に音を立てて鳴る。どうも、電話の向こうでエニシダさんがしきりに何か言い募ってるのはわかるけど。その内容が上手く脳に浸透してこない。
『実生。…そこにいる?ちゃんと聞いてる、これ?』
あまりの反応のなさに業を煮やしたのか、不安げにそんなことを訊かれた。わたしは慌ててとにかく声を出す。
「聞いてるよ。…ていうか。よくわからないんだけど。なんで、うちの前にエニシダさんがいるの?」
尋ねつつ舌打ちしたい思いだった。そうか、張り紙。
やっぱりよほどあの瞬間のわたしはパニックに陥ってたとしか思えない。あの張り紙を剥がしもせずそのままに残してきてしまったんだ。
エニシダさんが家に来るとは当然想定してないけど、そうじゃなくてもあんなの張りっぱなしじゃ周辺の部屋の人たちにこの部屋の主は滞納で追い出されてます、って宣伝してるも同然。別にもともと近所付き合いもないから特に顔も知られてはいないと思うけど。みっともないことこの上ない。
普通見た瞬間あんなの剥がすよな。前回は即そうしたのに。ああ、不覚。
電話の向こうでいつになく切実な声が近く響く。
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