第13章 どしゃ降りの中、全力

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『最近、会えないから。仕事で疲れてるんだし、君に来て欲しいってばっかりじゃいけないなって思って、こっちから会いに行こうって思ったんだ。顔見るだけでもいいからって…』 「そうなの?」 こんな時なのにじんときた。外に出るのが苦手で人混みを一人で歩くのが怖い人なのに。わたしが一緒の時以外は今でもほとんど外出しない。なのにわざわざ電車に乗って会いに来てくれてたんだ。 「連絡くれればよかったのに。そしたら…、ああ、でも、駄目か。どうせ部屋で待ってるってわけにいかないもんね」 つい自嘲すると、彼の声が苛立たしげに強くなった。 『そうだよ。これ何、実生?いきなり鍵を勝手に変えられて締め出されたってこと?そんなのいくらなんでも問題でしょ。女の子をいきなり路頭に迷わせるなんて。どうかしてるよ』 それはわたしも思わないでもないが。あとで考えるに、慌てて管理会社に速攻連絡を入れてくることを期待されてた(そして交渉で家賃を幾ばくかでも入金する約束を取り付けられたら部屋を手ずから開けてくれるつもりだったらしい)とわかるけど、その時は全然冷静にものを考えられる状態じゃなかったから。ただうろうろと街に彷徨い出るしかなかった。 「まあ、滞納したのは確かだから。四ヶ月も家賃払ってなかったら仕方ないのかも。こうなるってわかってて後回しにしたわけじゃないけど…」     
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