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彼女が提案したのは2人で協力してプレイするアクションパズルゲームだった。
「それならいいぞ」
「それじゃあ、やろっか」
少し嬉しそうな彼女の声が聞こえる。
早速ゲームを起動して、タイトル画面からマルチプレイを選択する。
僕は細長い長身のキャラクター、彼女は丸っこい小さなキャラクターを選択しゲームを始めた。
ゲームの難易度自体は大して難しくなくサクサクと進められたが、ゴール前の最後の難関でつまずいてしまった。
「ここ難しいね」
小さく、ひとりごちるように呟く彼女。
「そうだな」
攻略の手がかりを探しつつ、適当に答える。
「人生もさ、急に大きな壁が来るよね」
突然、難しいことを言い出した彼女に驚いて思わず、マウスを動かす手が止まってしまう。
「いきなりどうした」
「だってさ、学校に行くのは世間一般では普通のことだけど、私は行けてないじゃん」
ポツポツと呟くように話す彼女。
「私にはどうしても無理」
彼女はいつからか学校に行かなくなってしまった。
昔は、窓越しに話していた関係も、今はネット越しに話すようになってしまった。
「私はどうすればいいんだろ」
僕はただ彼女の言葉を聞く。ゲームはとうの昔にタイムアップになってしまっていた。
「何もしなくていいと思うぞ」
悩む彼女に対し無責任な言葉を投げかける。
最低である。
少なくとも今の生活は長くは続かない。
これから先、自分の部屋に引きこもり続けるわけにもいかない。
彼女は壁を超え、一歩を踏み出す勇気が必要だ。
しかし僕は、夜中にオンラインで繋がるこの関係が僕は嫌いではない。
僕はこの関係が壊れるのを恐れて彼女に停滞を求めている。
さっきの発言は、僕の意地汚さ、エゴに塗れた発言だ。
そんな僕がほとほと嫌になる。
だが、そんな穢れた言葉を受け取った彼女はそうだよねと少し嬉しそうに返す。
僕は、昔見た彼女の笑顔を思い出す。
東の空が白んでいた。
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