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早希がおばさんに寄り添ってくれる。 何か言わなきゃと思うけど、体も頭も働かない。 そこへ、千波のお姉さんがお茶を運んで来てくれて、おばさんの様子を見て、驚いて駆け寄る。 「母さん、敬史くん困ってるから…ね」 そう言って早希と変わり、おばさんの背中をさすってくれた。 そんな様子を、俺はぼーっと、本当にぼーっと見ていることしか出来なかった。 見るに見兼ねて、俺の横についてくれていた高橋が、「さっき、知らされて、俺でもショックが大き過ぎて、どう受けとめていいかわからないんです。だから、岩永はもっと……」と、俺に変わって話してくれたが、最後は口を噤んだ。 結局、その晩俺は何も話すことが出来なかった。 ただただ、部屋の片隅に座って、千波の事を見つめていた。 千波の家族はそれを許してくれて、高橋も、早希も南も、一緒に居てくれた。 次の日の始発の電車に乗るために、俺たちは千波のいる部屋を後にした。 俺の中で、どんなに千波の存在が大きくても、世間から見れば、元カノで大学の時からの友人でしかない千波が亡くなったからと言って、仕事を休む理由にはならない。 一旦家に戻って、身支度を整えて、仕事に行かねばならない。 火葬場の都合で、明日から千波は遺体ホテルに入る。 そして3日後に荼毘に付す。 4日後の土曜日に、告別式が開かれる。 だから、これで千波の姿を見るのは最後になる。 どれもこれも、俺にはよくわからない事ばかりだが、それが現実だった。
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