幼馴染の帳

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よし、まずはいったん落ち着こう。私も、相手も。 「……竜。とりあえず、一から説明してくんない?」  どうか杞憂でありますように。そう願って、元々致命的に足りていなかった主語や経緯の説明を寧々が要求すれば、電話先の相手は至極申し訳なさそうな声で事情を話し始めた。 『うん。えっとね、実はーー』 『……誰だ、こんな時間に電話してくる常識知らずな奴は』  寧々が内心強く思っても口には出さなかったその言葉を、寧々の幼なじみである白井晃太は不機嫌さを隠さずあっさりと言い放った。確かに彼にこの時間電話を掛けたのは寧々ではあるのだが、発端は彼ともまた幼なじみという関係を築いている竜之介なのだから寧々だけこうして責められるのは納得がいかない。いかないのだが、こうして真夜中であるにも関わらずすぐに車をだしてくれた彼には感謝するしかないので、文句も嫌みも途中に挟まれる溜息も見逃してやるほかないのである。  仕方ないじゃないか、だって寧々は免許は取ったがまだ車を持っていないのだ。駅の近くにすんでいて、大学への通学がそれで事足りてしまう寧々にとっては今のところ車の必要性を感じていない。 「で、竜之介がどうしたって?」  晃太の運転する車からは寧々の知らない洋楽が流れていた。寧々にはちっとも理解できない歌詞は右から左へと流れていって、じわじわと睡魔の味方をする。晃太が話しかけてくれなかったらまず瞼は閉じきっていただろう。はっと我に返れば、晃太の溜息がこれ見よがしに落とされた。信号が青に変わって、寧々を乗せた車が静かに動き出す。 「あれ、私説明しなかったっけ?」 「してない。電話かけてきて、竜之介のピンチだから車だしてくれって言って、行き先だけ言って、それっきり」 「あー……ごめん」  竜之介の説明不足を責められない自分のふがいなさと、訳も分からないながらこうしてつきあってくれる晃太の人の良さに、寧々は自己嫌悪に頭を抱えた。「いいよ別に。今更だろ」寧々のしぼんだ朝顔みたいな謝罪に、晃太はどこ吹く風とばかりにさらりと応じた。確かに昔から、寧々や竜之介が晃太を振り回してばかりいたから、晃太にとっては慣れたものかもしれないが、それでも一度沸いた罪悪感は居心地の悪さを寧々に覚えさせている。
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