幼馴染の帳

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 しかし晃太が別にいいと言ったのだから、いつまでも寧々ばかり引きずっているわけにもいかない。まず、罪悪感より優先すべきは現状を晃太に伝えることだ。ちらりと、運転席に座る晃太の横顔に視線を向けて、寧々は竜之介からの電話について話し始めた。  結論から言うと、竜之介は事故を起こしたわけではなかった。  いや、竜之介からすればそれは不意に訪れた事故ではあったのかもしれない。叱られた子犬のような声の竜之介の説明ではこうだ。  東京で大好きなアーティストのライブがあったらしく、竜之介はその帰りだった。ライブが終わったのは日も暮れた後で、それでも電車はまだ地元まで繋がっていたから終電合わせで家まで帰る予定だった。  このライブの為に前日までバイトを入れていた竜之介はライブ後というのも合わさって帰りにはくたくただったらしい。終電に間に合い、気が抜けたのかそのまま電車の中で寝てしまったようだった。  そこまで説明すると、合点がいったように晃太が言った。 「…で、乗り過ごして終点までいったのか…」 「惜しい。竜ね、乗り過ごしはしなかったの」 「じゃあ、何したんだ?」 「降りる駅を間違えたの。しかも二つ手前」 「ああ、そっか。そういえば寧々が行けって言ったのそっちの駅だったっけか」  眠り込んでしまった竜之介がハッと目を覚ましたとき、電車はちょうど彼が降りようとしていた場所から二つ手前の駅に止まったところだった。外が暗く、窓から見える構内が地元の駅と似通っていたのもあったのだろうし、終電だからここを降り損ねたら帰れないと焦ったのも理由のひとつだったはずだ。田舎の駅と駅の間は、とんでもなく距離があるのだ。二駅ともなれば距離は相当なもの。歩いて帰るなんて絶対に選択肢には浮かばないし、浮かべてもいけない。  到着したと勘違いした竜之介は慌ててそこで電車を降りーーそして、冒頭に寧々によこしたヘルプに繋がったのである。
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