幼馴染の帳

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 あらましを聞いた晃太から、深い溜息がまた落ちた。彼が寧々の家まで迎えにきてくれてからもう何度目になるだろう。 「晃太、そんなに溜息ばっかりだと幸せ逃げちゃうよ」 「…そのくらいで逃げる幸せならいらない」  晃太の言葉に、思わず「確かに」と頷いてしまった。溜息なんて晃太みたいに常日頃ではないけれど、それでも案外すぐ側に潜んでいるものだ。寧々だって気付けばよくこぼしてしまっている。そんな簡単に空中に溶けてしまえる幸せを、ずっと掴んでいられるとは寧々でも思わない。  思わないが、それでもなあ、と寧々は自分の髪を指先にくるくる絡めながら言った。 「でもさ、そんな些細なものでも幸せならやっぱり少しでも多く抱え込んでおくべきだよ」 「竜みたいに?」 「あー。確かに竜は溜息とは無縁そうね」  いつも楽しそうにへらへらと笑っている竜之介を思い出す。電話口では泣きそうな声だったけれど、きっとそれでも彼は溜息とはほど遠い存在なんだろう。  竜之介と正反対に溜息まみれの晃太を見て、本人には悪いが寧々は少しだけ心が温かくなった。こうして溜息ばかりで呆れた顔をしているけれど、今回のように寧々が強引にひっぱりだしてこなくても、きっと晃太はこうして真夜中であったって車を出して竜之介を迎えに行ってやるんだろう。それは幼なじみだからという理由以上に、彼が優しい人だからだと、寧々は知っている。  ずっと、昔から知っている。
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