幼馴染の帳

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 竜之介が待つ駅にたどり着いたのはそれから一時間ほど後のことだった。真夜中で道こそ混んではいなかったが、やはり距離ばかりは埋められない。線路沿いにまっすぐ道があればいいのに、とは晃太が途中で恨みがましくこぼした言葉だ。外灯だけがかろうじて光っている駅前に車を寄せれば、駅前の数段しかない階段に座りこみ携帯をいじっていた竜之介が嬉しそうに顔を上げた。  ぱたぱたと駆け寄ってきて、後部座席に乗り込み、待ってましたと言葉をまくしたてはじめた。 「ねーちゃん、コータ、ありがとう助かった! 電車はないし人もいないし携帯の充電もあとちょっとで終わるしでお先真っ暗になるところだった!」  寧々は思わず頭を抑えた。この、夜さえも持ち前の明るさでぺかっと照らすようなテンションの彼が、本当に少し前にへたれた声で助けてくれと電話してきた奴と同一人物だというのか。だがしかし何度でも述べるが、小さい頃からずっと側にいるのだ、同一人物であることは寧々自身が一番よく知っている。このテンションの高さも、寧々と晃太が迎えに来たことにより竜之介の中にあった不安が掻き消えたからであることも勿論、重々承知している。良くも悪くも単純なのだ、竜之介は。  寧々の小さな幸せもまた、はあ、と空中に溶けていった。こんなにも頻繁に溜息の形で外に出ていくのなら、世界にはどれだけ幸せが溶けて漂っているんだろう。飽和しないんだろうか。そんなしょうもないことを考えながら寧々は、車が動き出すと同時に、ミラー越しに後部座席の竜之介にもの申した。 「竜の馬鹿。大馬鹿。わたしも晃太も起きてたからいいけど、次から気をつけてよね。特に晃太には感謝しなさいよ、こんな時間にここまで運転してきてくれたんだから」 「うん、マジでありがとうコータ。幼なじみの絆の強さをここでこんなに実感するとは」 「…俺一人だったら絶対に迎えに行かなかったから、感謝するならせっついた寧々にもな」  晃太の言葉に、そんなことないくせにと再度寧々は内心で思う。けれどどうしてか、竜之介は晃太のそんな素直じゃない言葉を正面から受け止めて、肯定した。あれ、と寧々が思う間もなく、バックミラーの中で竜之介が微笑んだ。なんだか、どこか大人びた笑みだった。 「確かにそうかも。ねーちゃんもありがとう」
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