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 「輪廻転生って知っているか?」  男はそう訊いてきた―――こんな状況で。  「えっと、・・・死んだらまた生まれ変わるとか、そういう話でしたっけ?」  とりあえず、身動きは取らず知っている限りのことを応えてみた―――こんな状況で。いや、こんな状況だから、か?  「まあ、そんなとこだな。死んであの世に行った魂が、再び何かの命となってこの世に生まれ変わってくる。そしてそれを繰り返すんだ、何度も」  一体男が何を言わんとしているのかを探るように、注意深く話を聞く。それがわからない限りは、この突きつけられた刃物の意味もわからない。  オガタは自分の喉元に突きつけられた刃から目を離さないまま続きを待った。すると、  「なにがいい?」  と、正面に立つ刃物を手にした男が訊いた。  「え?」  「生まれ変わるなら、なにがいい?」  これは、つまり、これで自分の人生は終わるということか・・・?そんなことを考え、言葉に詰まっていると、再び男が訊いてきた。  「人か、犬か、鳥か、それとも植物か、なんだ?」  喉元の刃物がグイっと近づいてきたので、オガタは慌てて応える。  「ひ、ひと!人、ですかね」  「そうか・・・まあ、そうだろうな」  刃物が元の位置まで下がり、ホッと息を吐く―――いや、息の抜けない状況が続いていることには変わりない。  では、と男が続ける。  「なりたくないものはなんだ?」  なんなのだ、いったい・・・?男のしたいことがさっぱりわからないままだったが、先程の事もあるので刃物が近づいてくる前に応えようと、焦りと混乱でうまくまわらない頭で必死に考える。  「ええと、なりたくないもの、ですよね?あのー、ええと、それは」  男がまた近づきそうになったのを感じ咄嗟に叫んだ。  「せ、蝉!蝉です!」  それまで全く表情の変えなかった男の目が、驚きの色を帯び大きくなった―――ように見えた。なんだ、その反応は?失敗か?この答えは失敗なのか?と、オガタが怯えていると、尚も男の詰問が飛んできた。  「それはなぜだ?」  「いや、あの、蝉って何年間もずっと土の中で暮らして、ようやく外に出たと思ったら七日で死んじゃうんですよね・・・?それは、ちょっと・・・」  「七日と決まっているわけではない、一か月生きることもある」  「え?あ、そ、そうなんですか?」
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