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 「要は、長く生きられるかは天敵に会うかどうかだ」  「はあ・・・そうなんですね」  なんだ?やけに蝉に食いつくな。もしかして好きだったのだろうか?  まあ、それでも―――男は言う。  「実際、七日だったがな」  「実際・・・?」  「四年地中で暮らして、ようやく地上に出たと思ったら七日。四年と七日だ。何も出来ない子ども時代ばかりが長く、大人になっていろいろやれるようになったと思ったら、すぐにその命は終りを告げる」  ペットの蝉でも飼っていたのだろうか?と思うオガタに、「ずっと前に俺は、」と男が繋いだ。  「人間のように大人として生きられる時間が長ければ、なんでも出来ると思ってた。そんなに素晴らしいことはない、とも。だが・・・、そううまくもいかないものだな」  「・・・・・・そうですね」  男が何を言いたいのかずっと理解できなかったオガタであったが、最後のそれだけは共感できた。大人になることで、責任を負うことで、自由にできることもあれど良いことばかりではない。むしろ辛いことは増える一方だ。この先だって特に何があるわけでもなさそうな自分の人生に、決して輝きを感じられないのが本音だ。こうやって、29歳にもなって週に五日コンビニで夜勤のバイトをして、日中はパチンコ、スロット、スマホゲーム、一緒に出掛けるような異性もおらず、田舎の親からは将来の心配をされ、挙句の果てには勤務中のコンビニで強盗(?)と遭遇する始末。しかも、その強盗(?)はさっさと金を取って逃げれば良いものの、こうやって輪廻転生やら蝉の話題を投げかけてくるという訳のわからなさ。あ、いや、蝉の話は自分のせいか。なんだか改めて考えると悲しくなってきた。  その時であった。その可能性はもちろんそれまでも十分あり得たので、むしろこの時までそうならなかったのが偶然とも言えるのかもしれないが、ともかく―――ピロリロリロン♪という音が響いたかと思うと、それまでオガタとこの男しかいなかった店内に別の客が入ってきた。  「いらっしゃいませ、こんばんは~」と、ついいつもの調子で言ってしまった自分に驚いたのも束の間、次の瞬間、店員が刃物を突き付けられている光景を目の当たりにしたその女性客は、サスペンスドラマなら百点であろう見事な悲鳴を上げた。  「きゃああああ!」
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