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 なんだか息苦しい。それに体がうまく動かない。オガタはぼんやりとした意識の中、そんなことを思っていた。  (あれ、なんだっけ・・・なにか・・・ああ、そうだ、男がコンビニに入ってきて刃物を・・・・・・。そうだ!!俺刺されて、それから・・・、あれ?何がどうなったんだ?ん?)  辺りを見まわしたが、暗く視界もはっきりとしない。どこだ、ここは?  なんとか体を動かしてみると、すぐ近くの壁の様な物がぽろぽろと崩れた。  (土・・・?)  手を伸ばして土に触れようとした時、オガタは自分の体に違和感を覚えた。  手が届かなかった。いや、本来ある位置まで手が『無かった』―――。  ぞくっと冷たいものを感じたオガタはすぐさま、自らの姿を確認しようと体をくねらせた。くねらせた―――?なぜ自分がそんな動きを取ったかはわからないが、自分の体の動かし方は自分が教えてくれた。そうして少しずつ目が慣れていったオガタが確認したそれは、虫の姿をしていた。白く半透明の体。何かの幼虫の様な。先程伸ばそうとした手は、『手』というより『前足』で鎌状になっている。オガタの脳裏にコンビニでの男との会話がフラッシュバックする。  (・・・・・・セミ?)  「うわあああああ!」とは、叫ぶことが出来ず、ただ体をジタバタとむやみに動かした。  なぜだ!?どうして、いや、そういうことなのか?つまり、俺は一度死んで、蝉として生まれ変わったと、そういうことなのか?我ながら物分かりが良すぎるだろうと思いつつも、オガタの中で不思議なほどに全てが繋がってくる。  と、それは突然語りかけてきた。  ―――生きろ    (・・・?)  その声がなんなのかを考える間もなく、体がひとりでに動き出していた。オガタは木の根がある所まで土を掘り進めると、口先を木の根に刺し、樹液を吸い始めた。  誰に教えられたわけでもないのに、体がそのやり方を知っていた。しいて言えば、先程の声か。オガタは樹液を吸いながら、その声の正体をなんとなく掴みかけていた。理性や言葉を持たぬ生物が、何よりも従うもの―――『本能』だ。  再び男の言葉を思い出す。四年と七日。オガタはこれから土の中で四年も生きねばならぬのか、と己の運命に辟易したが、そういえば何を持って時間を計ればいいのだろうと疑問を抱いた。
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