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 それからオガタは、まさに本能に従って生きていった。初めてのセミ体験ではあったが、生きるためのあれこれは全て本能が教えてくれた。地下生活のうちに何度か脱皮も経験した。オガタの体は初めに見た透明なそれではなく、少しずつ良く知る蝉の色となっていった。  たしかに順調に成長してきた、してきたが、とにかく退屈であった。毎日毎日ただ土の中で樹液を吸うだけの生活。頭がおかしくならなかったのは、セミの本能も徐々にオガタの中に侵食していったからだった。セミとしてのオガタは本能に教えられるまま、生きるために真剣だった。さしずめ、進研ゼミ高校講座ならぬ真剣セミ本能講座、といったところだ。・・・何を言っているのかと聞かれたら、ほんと~~になんでもないので聞き流してくれと言いたい。そりゃあ、こんなくだらないことだって考えてしまうさ、なにせ暇なんだもの。  そんなオガタの地上に出ることを夢見る毎日は続き、そして、その時はようやく訪れた。    ―――地上に向かえ!  その声がそう告げると、オガタは地上に向けて穴を掘り進めた。  (いよいよだ、いよいよ地上に出られるのだ!これまでの退屈な日々とはオサラバだ。)  オガタははやる気持ちを抑えられず、無我夢中で鎌状の前足を動かした。光が漏れる。最後の一かきは4年ぶりの太陽をオガタに見せた。  (外の世界だ!待ち望んだ地上!)  そこはオガタの知るそれよりも広く、どこまでも広く感じられた。無限に続く明るい世界―――。  しかし、感動の瞬間も束の間、夕暮れの中オガタは木に登った。もちろんこれも本能に教えられるまま、大人になる最後の仕上げのために。これまでも数回脱皮は経験してきたが、今回のそれは格別であった。おかしな話、まさに『生まれ変わる』ような心地だった。それまでの自分を脱ぎ捨てると、オガタは羽を広げ飛び立つのであった。  自由だ!オガタはこの上ない喜びを感じた。これから何をしよう、どこにでも行ける羽もある、なんだって出来る!そしてオガタは飛び回った。  翌日、そんなオガタの考えは一笑に付されることとなる。    ―――子孫を残せ。そのために鳴け。以上。  本能先生からの最後の教えは、その二点のみだった。
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