3/4
前へ
/9ページ
次へ
 (って、交尾する相手見つけるためだけに、あんなにやかましく鳴いてるのかよ!やっとこさ大人になって地上に戻ってきたかと思ったら、やることそれだけかよ!嫌だ!俺はもっと違うことをするんだ!もっといろいろ・・・あれ?くそ!俺はもっと別の事を、別・・・べ・・・みーんみんみんみんみんみんみん・・・違う!こんな鳴いて雌呼ぶだけの一生・・・、一生なんて、い、や、みーんみんみんみんみんみんみん!くっそ、みんみん・・・所詮俺はセミだってことか、みんみん、本能には逆らえないのか、みんみん、もう語尾が「みんみん」の奴みたいになってんじゃねーか!俺は抗ってやる!みんみん、抗ってやるぞー!みんみん・・・)  オガタ対本能の戦いはしばらく続いた。とはいえ、当然蝉としてのオガタは本能に逆らえるわけもなく、それから六日間場所を変えては『みんみん』言い続けることとなる。  思えば、人間の頃はパートナーを見つけるためにこんなに必死になったことはなかった。人間だって動物だ。子孫繁栄は本能的なものであるはずなのに、それに抗えていたことになる。どうしてそんなことができていたのか不思議だ。いや、まあ人間は寿命も長いし、個体数も多い。自分がそれほど必死にならなくても誰かが子孫を残してくれるのだ。つまり、他力本願だった、ということかもしれないな・・・。  オガタがそんなことを考えながら飛んでいた時だった。オガタの頭には人間時代に知っていた『一寸先は闇』という諺が浮かぶこととなる。  (うわっ!?・・・!!)  ものの見事にひっかかった。それははっきりとは見えないほどに細く、しかし、どれだけ動いても破れない程に頑丈な罠―――蜘蛛の巣であった。  なんてことだ。わずかしかない寿命も、その目的を全うすることなく果ててしまうのか、と体の力が抜けていく。  と、そこにどう見てもこの巣の主が現れた。八本の長い脚で器用に糸の上を歩き近づいてくる。蜘蛛はオガタの前まで来るとその長い脚をオガタの喉元に突きつけた。その光景に―――また、これか・・・と、オガタはおかしく思えてしまった。  「輪廻転生って知ってるか?」今度はオガタが尋ねた。  「なんだそれは」蜘蛛は訊き返す。  不思議だった。人間の様な言葉ではない、だが、こうやって通じ合える。言葉など使わなくてよい分、人間より実は遥かに高度なのではないか、そんなふうに思えた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加