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突然、壺が今まで見たどんな光よりも強く輝き出した。あまりの眩しさに目を開けていられず、掌で目を覆った。
そしてその光は私の目の前に集まりだし徐々に何かの形になってきた。やがて男性の姿が不自然に薄く梅干し壺の背後に浮かび上がった。
その男性は薄い水色の着物に濃い青い袴を履いていた、茫然自失としている私を放っておき、どんどん男性は濃くなっていく。
やがて彼は生身の人間のように肌に艶がでてきた、命があるのだとはっきりわかる。
いきなり現れた男性は梅干しを一つ摘むと口に放り込んだ。
「うーん酸っぺぇ!あれ?俺、梅干し食べられた?」
彼は驚いて動けなくなっている私を見て我に返ったらしい。身体に響くような低い声で雄叫びを上げた。
「うぉー!!」
この雄叫びを合図にしたかのように、また強烈な光が現れた。彼の横におじいさんがうっすらと見えたかと思うと、一瞬のうちに少し透明なロマンスグレーの髪のおじいさんが現れた。
おじいさんはこの世の喜怒哀楽を全て捨てたような穏やかな顔で、若い男にこう告げた。
「お久しぶりですね。いいお知らせですよ、上の人からのお知らせです。あなたに時間を差し上げましょう、その期間は百日。百日間だけ、生身の人間でいることができます。そしてあなたかやり残したことを見つけ、心残りを無くしてください。そうすると輪廻転成の部屋へと戻ることができます。ただ、それができなかったら……」
彼が真剣な眼差しでおじいさんを見据えこう言った
「奥野さん、できなかったら俺はどうなるの?」
おじいさんは急に表情を無くし能面のようになった。
「また幽霊に戻って下さい、今までと同じように何十年、何百年、何千年と彷徨い続けてもらいます」
「そんな、俺はまた幽霊に戻るなんて嫌だよ!奥野さん、何とかしてくれよ!」
おじいさんは悲しそうに後ろを向いた。彼を見るのが辛いのだろう。
「私にはできません、上からの指示ですから」
そう呟くおじいさんを私は唖然と眺めていた、何故ならただ眺めているしかできなかったからだ。
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