41人が本棚に入れています
本棚に追加
ここの部屋主である私を無視して、進められる訳のわからない展開に混乱していた。
幽霊?輪廻転成?これはドッキリだろうか?いや、今の私にはドッキリをかけてくれる友達なんていない。
未知の恐怖に肩が震えるけど、言わなくてはいけない。
「ちょっと、人の部屋で勝手に何やってるのよ!」
やっとのことで挙げた抗議の声に、おじいさんは私の存在に気がついたようだ、和かに微笑むとこう告げた。
「あなたが一番よくわかっているはずですよ。それでは」
おじいさんの姿がどんどん薄くなっていく、後ろにある段ボールの山がはっきりと見えてきた。
「ちょっと待ってよ、奥野さん!」
若い男はおじいさんを必死に捕まえようとしている。しかし、おじいさんはどんどん薄くなっていき、あっという間に綺麗さっぱり消えて無くなってしまった。
そこには段ボールの山があるだけだ。
残された若い男とお互いに見つめ合う。息苦しい時間が六十秒程流れ、口火を切ったのは短気な私だった。
「あなたは……一体誰ですか?」
「某か?某は真田信繁こと、真田幸村である」
わざとらしく腰に挿してある刀を振り上げた。妙に芝居がかった自己紹介に私は頭がクラクラして倒れるかと思った。
見ての通り、ごく平凡な私は霊感なんて一つもないし、金縛りもあったことがないし、スピリチュアルに心酔してたわけでもない。
テレビで小人を見たアイドルの甘ったるい話を聞いて、舌打ちするぐらいオカルトに興味がないし、好きではない。
けれども、おそらく目の前の人物は幽霊、いや元幽霊だろう。少なくとも生身の人間ではない。
そして幽霊の中でも、普通の幽霊ではない。ここ上田の英雄、真田幸村を自称する頭のおかしな幽霊だ。
そいつが何故だか私の目の前で生身の人間となって現れたのだ。
目の前に突如として現れた自称幸村を恐る恐る観察してみると、身長は私よりも十センチ程高い、おそらく百七十五センチ位で前髪がない。
髪の毛を後ろで一つに結んでいる。そして水色の袴に青色の着物を着ている。割と整った顔立ちをしていて顔がまだ幼い。高校生?それよりも少し上?そういった印象を受ける。
自称幸村もただ私の顔をずっと見つめている。言葉を交わすわけでもなく、ただお互いに見つめ合っていた。
最初のコメントを投稿しよう!