第2章 真田幸村(自称)参上!

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三十秒後、幸村のお腹の音が「グゥー」と大きな音を立てたことによって、この睨めっこは終わりを迎える。 幸村が恥ずかしそうにお腹を抑えた。あの音から察するに大分お腹が空いているのだろう。私もお腹が空いていたけれど、ご飯と梅干しを幸村の目の前に置き、割り箸をその上に乗せた。 「どうぞ」 「……じゃあ遠慮なく」 自称真田幸村は、一口ご飯を口に入れると、途端に涙をポロポロと流した。 「うめぇ、うめぇ。俺は四百年間、白米と梅干しを食べるのが夢だったんだ」 私が食べる予定だったレトルトご飯と梅干しは、自称幸村があっという間にご飯粒一つも残さず食べてしまった。 「美味しかった?」 「美味かった。最高だ。こんな上手い白飯食ったことがない」 「これで成仏できそう?」 自称幸村の顔をじっと見つめながらそう言うと、彼は右手で自分の左指や足を軽くたたいた。生身の人間を叩くペチペチという肉感のある音がした。 そして彼は急に立ち上がったかと思うと、歌舞伎役者のように抑揚をつけ、こう言った。 「まだ無理なようだ。さっき聞いていたと思うが、俺には果たさなくてはならない使命がある。それを果たすまでは、果たすまでは」 荒波の海が背景に似合いそうな台詞がおかしく乾いた笑いが出た。もっとお腹を抱えて笑いたかったのに、体が笑い方を忘れてしまったようだ。 「で、何なの?その使命って」 「詳しくは俺もわからん、ただ四百年間脳裏に焼き付いて離れぬ女がおる。そいつに復讐することがそうではないかと」 適当な相槌を打ちながらふと我に返る。 幽霊とスムーズに会話している自分を不安に思いながらも奇想天外な状況を知りたいと思う好奇心が勝り会話を続けた。 「ふぅん、ところで奥野さんって、さっきのおじいさんだよね?一体何なの?」 「平成の初めくらいから、この地区の見回りみたいな役をやってるじいさんだ。普段はどこか違う所にいるようだが、月に一回くらい様子を見に来ていた 、要するに幽霊の管理をやってるんだ。ちなみに、あのじいさんの上にいる上司はめちゃくちゃ偉い人で、天国のとある部屋で輪廻転生を仕切ってる奴らしい」 本当か嘘か、いまいち実感がわかない話に「へぇ」と適当な相槌を打った。
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