第2章 真田幸村(自称)参上!

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その時は「もう一杯梅干しご飯を食べさせれば、彼は成仏するんじゃないか」なんて甘いことをまだ考えていた。 「じゃあ、もう一杯お代わりしてみる?そしたらすっきりして天国に行けるかもよ」 そう言いながらも再び幸村をマジマジと見た。幽霊を見たのも生まれて初めてだし、現代人ではない人を見るのも初めてだ。 幸村は若くて聡明な顔立ちをしていた。高校を出たてのようなそんなフレッシュな雰囲気を持っている。現代人に換算すると二十歳手前ぐらいだろうか。 幸村は急にベランダの外の青空を見た。 「まだまだ成仏はできぬ。その憎き女に仇討ちしなければ、それに憎き家康の首をまだとってはおらぬ!」 幸村は心底悔しそうに床を叩いた。 上田市民ならたいていの人は見ていただろう。歴史に全く興味がないパッパラパーな私でも、数年前の大河ドラマで真田幸村の大体の生涯は理解していた。 真田家は家康と二度の合戦を戦ったが、家康によって和歌山の九度山に幽閉され、大坂の陣で家康まであと一歩という所で亡くなってしまう。そんな話だったと思う。 彼がご飯を食べて直ぐに成仏してくれていれば、もっと優しくできていた、けれども徳川家康という更に浮世離れした名前がでてきた時点で、不快指数が上限値まで急上昇し、その結果、私の地の性格が露見してしまった。 自分の気に入らないことがあると、他人に対して威圧的になるのだ、つくづく嫌な性格だ。 「もう家康死んでるって!ってかあなた、本当に真田幸村なの?とてもじゃないけど、そうは見えないんだけど?」 私の怒りを感じたのか、幸村は自信がなさそうにポツリと言った。 「……おそらく」 「何で自信がないのよ!自分は誰かなんてわかるでしょうが」 私がそうたたみ込むと、幸村はポツリポツリと語り出した。 「四百年前、気がついた時にはここにいた。江戸の時代の最初だったと記憶している。ここは上田城主、真田信之に仕える武士の屋敷だった。 家老筋らしく、それは立派なお屋敷だったんだ。ところがだ、誰かに触っても、大きな声を出しても、暴れても誰も俺に気がついてくれない。
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