第2章 真田幸村(自称)参上!

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けれども、腹がたつよりも何だか不思議な感覚が襲って来る。いったい彼は何者で何の目的で真田幸村を名乗る幽霊を長い間やってたんだろう。 「……自分の事全く覚えてないのに、じゃあ何で自分が真田幸村だと思ったのよ?」 彼は急に厳しい顔になる。何か重大なことがあるのではないのか。 「三年前、ここがまだボロアパートだった頃、じいさんが一人で住んでたんだか、ドラマ好きでな。 じいさんの見ている大河ドラマを見てふと身に覚えがある気がした。あの六文銭、大阪城での生活、九度山での蟄居、俺は確かにあそこにいた。 間違いない。俺は真田信繁こと幸村であり、あの時代を生きていたはずなんだ」 昨年、大河ドラマがやっていた頃、こんな風に「俺は幸村の生まれ変わりだ」と自称する人がここ上田には沢山いた。 その中でもトップオブ可笑しいおじさんが、意気揚々と全国テレビに出て、恥を晒していた。 「我が真田幸村である」と叫び、下手くそな刀さばきを披露していた。同じ上田市民として恥ずかしくて仕方がなかったことを覚えている。 彼も同類なのだろう、けれども目の前の彼は着ている着物からして武士っぽいような。もしかして……本当に幸村なのだろうか? いや、そんなわけはない、何というか全てが胡散臭い。あのおじいさんと同じ匂いがする。 自称幸村は私の怪訝な表情を気にもせず、相変わらず自分勝手に話を続けた。 「幸村の父上に対する慕情、太閤殿下の築いた大阪城を守りたいという男気、家康を敵討ちしてやるという恩義、全部俺が思ってた事と同じなんだ」 そして自称幸村はベランダにでて雄叫びをあげた。私はその様子を見て一つの結論を出した。 目の前にいるのは、ただの真田幸村に心酔しているおかしな元幽霊だ。おまけに記憶喪失で、百日経たないと消えてくれないらしい。 でも、それでもいいや。 この嘘のような本当の出来事で、この部屋で暮らす初日、つまりは今日を乗り切れそうな気がするから。
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