第2章 真田幸村(自称)参上!

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けれども「大丈夫だって、せっかく慰謝料がわりにマンション一室貰ったんだから、住まなきゃ損でしょ」と強固に言い張ったのだ。 そのお陰で、少し距離が縮まった家族とまた距離が空いてしまった。元々私よりも明るくて素直で可愛い妹のことを大切にする家族だから、もう別にいい。 このマンションのすぐ近くに彼と彼女が暮らしていると聞いて、その生活を、未来を、全てをぶっ壊してやりたい。 私達が結婚式をあげる予定だった九月三十日に、マリアージュ上田城で文香も浩と式を挙げるらしい。 結婚式当日にこのマンションで婚約者を親友に寝取られたアラサーが命を絶ったら……地方紙ぐらいには掲載され、浩の職場の信越放送でもニュースぐらいは流してくれると思う。 きっと彼は私を捨てたことを後悔してくれるだろう、一生私のことは忘れられなくなる。そして彼女との結婚を思い直すのだ。 だから九月三十日までは、生きなくてはならない。何があったとしても。 シャワーから上がると奥の部屋から爆音のイビキが聞こえてくる。 元幽霊の癖に人間っぽい生々しい音を出しているのが可笑しくて笑った。今度はさっきよりも上手に笑えた。 リビングの電気を消し、自分の部屋のドアを閉めた。窓からは夏の大三角形がうっすらと雲に隠れながら見える。 不幸な日々の始まりだったはずが、思いの外悲しい気持ちにならずに住んだのは、正体不明の元幽霊のおかげかもしれない。 そう思いながら布団に入ると、久々に睡魔が襲ってくる。この夜、一週間ぶりに眠りにつくことができた。
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