第2章 真田幸村(自称)参上!

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一年前に文香を浩に紹介した時に、文香は涙を流しこう言った。 「素敵な彼だね。加奈子が幸せでよかった」 そんな文香を見て私も泣けてきた。27年間、ずっと友情なんか気持ち悪いと強がっていた。でも、それは間違っていたと初めて認め、人と人は支え合って生きているんだと実感した。 けれどもこの仕打ちだ。 あの時の全ての物を手に入れたという文香の満足気な顔を思い出す度に、胸の奥から底気味の悪い何かが溢れて来る。 結局の所、人間なんて信用しちゃいけない、どんな人だって自分が一番可愛い。自分の為なら他人なんてすぐに裏切る。 「そんなもんでしょ?」 この合言葉を文香のおかげで忘れることができ、再び思い出すことができた。 どれだけ心は疲れていても、お腹は減ってくる、それが人間だ。空腹を感じ、リビングの床の上に力なく座り込んでいたけれど、必死の思いで立ち上がった。 あの計画を実行するまで、もう少しだけ、ほんの少しだけ、頑張って生きていなければならない。 朝から何も食べていなかった事を思い出したけれども、今から外に買いに行く元気もない。 仕方がないので、積み木のように積まれたダンボールを退かし、非常食と書かれた段ボールを開けると、レトルトのご飯があった。 「これとやっば梅干しだよね」 大きな独り言をつぶやきながら、同じ段ボールから古めかし陶器の壺をとりだした。この淵が欠けた壺には梅干しが入っている、そしてただの梅干しじゃない。 妹ばかり可愛がる両親と違い、私の唯一の味方であるじいちゃんが畑にあるでかい梅の木から収穫し、それをばあちゃんがつけてくれた代物だ。 それに先祖代々伝わるこの梅干し壺。蓋が少し欠けてきてはいるか、それが歴史のある骨董品だということを演出している。 就職が決まり、家を出るときに、ばあちゃんから受け継いだものだ。 この梅干し壺を見ているとほんの少しだけ元気が湧く、電子レンジにレトルトご飯を入れると二分後、リズミカルで軽快な音楽が聞こえた。 ご飯を新品のお椀に開け、割り箸を割った。そして古い梅干し壺をあけた瞬間のことだった。
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