第4章 仕事なんてしたくない!

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第4章 仕事なんてしたくない!

「店長呼べよ、店長を」 心臓をギュッと掴まれるような大声が鼓膜に響いた。 厨房で、最新の注意を払いながらコーヒーゼリーの上に乗せる生クリームを絞り出している所だったのに。 厨房にいたアルバイトの上野さんが不安そうな瞳で私を見た。わかってるって、わかってるよ。大きく頷き、息を吐くと厨房から出た。 客席を見渡すと、すぐに震源地がわかった。フロアのちょうどま真ん中に位置するテーブル座っている中年男性だ。 紺色のトレーナーに灰色のスラックスを履いていて、仕事中のサラリーマンではなさそうだ。そして「俺は怒ってるんだぞ」とばかりに、大袈裟に貧乏ゆすりをしている。 「お客様、どう致しましたか?私が店長の鮫島です」 そう言うと中年男性の顔が一瞬緩んだのがわかった。自分よりも弱そうな若い女が出てきたから安堵したのだ、 「これで自分の要求を通せる」そう踏んだのだろう。クレームをつけてくる人全員がそう、もう毎回の事だ。 「どうもこうもねぇだろう!さっきから子供がうるさく騒いでんのに注意もしねぇ、どうなってるだ!俺みたいに静かに飲みたいお客様もいるんだぞ!」 中年男性の怒鳴り声に、さっきまで楽しそうにはしゃいでいた子供達は一斉に泣き出した。 そして母親がそれを宥めたり、サラリーマン風のお客さんは、中年男性に聞こえるような声で「お前が一番うるせぇよ」と言ったりと一触即発。店内は地獄絵図だ。 「申し訳ございません、お客様。」 マニュアル通りに頭を下げた。唇を噛んでグッと堪える。 子供達だって店内を叫びながら走り回っていた訳ではない。 ただあっち向いてホイに夢中になり、声が大きかったと言えば大きかったような気もする程度なのに。 「お客様は神様です」何て誰が言い出したのだろう。この言葉を間に受けて、一円でもお金を払えば自分は神様になり、最高級のサービスと環境が与えられると思っている人達がいる。 けれども、高級レストランには高級の、ファミリーレストランにはファミリーレストランなりのサービスと環境がある。と私はそう思う。 しかし、世間特にここ日本では、一円でも払えば神様として崇めなくてはならない。 「子供がうるさい」だけじゃ弱いと踏んだのか、男性は別なクレームを付け足す。 「おまけにコーヒーが熱くて舌が火傷したんだ!どうなってるんだこの店は!」
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