ふたりが奏でる音色

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「あああ……やっぱりお前だっ! 俺の世界観を初見で再現しちまった! 頼むっ、俺と一緒に『GIBSON』に出てくれっ! 俺はSHIMONになりたいんだっ!!」  ……もう仕方がないじゃない。こんな曲を聴かされてしまったら。  色んな事が怖いけど、仕方がないわ。あたしは夢見るようにうなづいて、先輩に言うの。 「……いいですよ。でもあたしの事、今までみたいにちゃんと振って下さいね……」  SHIMONの娘だからって、理想のピアノだったからって好かれたくなんかない。  あたしは『あたし』を、先輩に好きになって欲しいんだから……。  それからあたしは必死になってキーボードの練習をする事になる。家には電子ピアノがあるから、イヤホンをつけてほぼ一晩中。  学校では軽音部に混ざって弾きまくる。ギターの本城先輩とベースの結城先輩、そしてドラムの東田(ひがしだ)先輩に、なんとかついていこうとあたしは必死になる。  北海道から帰って来たお父さんは、しばらくオフをとっているようだった。昼間はなじみの楽器屋さんに顔を出したり、家で映画を見たりして過ごしている。そしてもちろんギターも弾いて。  急に一生懸命ピアノに向かい始めたあたしに驚いて、とってもうれしそう。「どうしたの」と訊かれるから、あたしは思わず漏らしてしまう。軽音部の先輩にバンドに誘われた事、『GIBSON』に出る事になってしまった事……。  怒られるかな、と思った。高校生が『GIBSON』なんて。『GIBSON』は今どき珍しい、ちゃんとした審査があるライブハウス。誰でも出られるわけじゃない。お客さんも耳が肥えてる。でも、お父さんはやっぱりうれしそうにこんな事を言うの。 「すごいな。高校生で『GIBSON』に受かるなら、その先輩はきっと才能があるよ。音色がバンドしてくれるなんて、お父さんすごくうれしいよ……」  そしてあたしはあのピアノ曲を弾いて、お父さんはアコギでセッションする。   ギタリストSHIMONは、本当に別格。  最高のギタリストとのセッションに、素人同然のあたしは、それでも涙が出そうなほどに感動する。
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