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うちのお父さんはミュージシャン。
ギター1本であたしをここまで育ててくれた。父ひとり子ひとり、親戚も皆無の私にとって、お父さんはピックを握ったヒーロー。
たとえタトゥーが入っていても銀色の長い髪でも、煙草を吸ってもろくに家にいなくても、あたしはお父さんが大好き。だってお父さんはたったひとりの家族。そしてあたしを深く愛してくれる。
……だけど残念ながら、外に出して自慢できる父親ではないの。だってどこからどう見てもサラリーマンには見えないうちのお父さん。
一緒に歩けば道行く人は誰もがぎょっとする。間違いなく正業にはついていない中年男と高校一年生のあたし。警察に職質される事だって珍しくない。小学生の時なんて通報されて、お父さんは警察に確保されていた。
親子なのに、あたし達はそうは見えない。やがてあたしはお父さんの娘である事を隠すようになった。だってこんな父親がいるってバレたら、友達は驚くしきっと彼氏も出来やしない。
特に高校に入学してからは細心の注意を払っている。だから小学校から同級生の舞花以外は、私にあんな変わった父親がいるだなんて……誰も知らない。
「先輩おはようございます! つきあって下さい!」
部室前で今日も元気に待ち伏せをして、あたしは先輩にあいさつをする。 部室と言ってもそこは音楽準備室。楽器をあれこれ収納している倉庫みたいなその部屋は、軽音部の練習場所として使われている。
「おお……高階か。相変わらずうっせえな。お断りします」
面倒くさそうな表情でにべもなくそんな事を言うのは本城先輩。本城律という、名前までカッコいい軽音部の部長。ギター兼ボーカル担当。あたしの……好きな人。
「んー、今日も音色ちゃんは元気だねえ。この告白を聞かなきゃ1日が始まらない気すらするよ。律、もうそろそろ折れてあげれば? 音色ちゃん、可愛いじゃん」
そんな事を言ってくれるのは結城晴人先輩。軽音部でベース担当。本城先輩とは幼なじみらしくて、私にも優しく笑いかけてくれる、温厚な人。
「冗談じゃねーよ、やかましいガサツ女。俺は押せば倒れそうな、か弱い女が好きなんだ」
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