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先輩に恋したあたしは、最初は思いつめた挙げ句に告白した。場所は先輩のおうちの近くの公園。リサーチしてあとをつけて、心臓が止まりそうなくらいにどきどきしながら、思いの丈を必死に伝えた。
「先輩、好きです。あたしと、つきあって下さい……!」
結果は……スルー。聞いているのか聞こえていないのか分からないぐらいに華麗に通り過ぎられて、あたしは逆に燃え上がってしまった。
絶対に、仲良くなってみせる。お父さんとよく似た雰囲気のこの男の人。
舞花は「あんな怖い人、絶対に話しかけられない!」なんて言う。確かに先輩は、綺麗な顔がまるで刃物みたいに尖っている。その目はとても冷たい。でも、あたしは知っている。
あんな人は笑うととても素敵な笑顔になるのよ。お父さんがそうだもん。この人は、絶対に優しい人に違いない。
だからあきらめずに先輩を思い続けて、告白をし続ける。それはだんだん習慣化し始めて、毎朝の恒例行事になってきた。
少しづつ先輩はあたしと話をしてくれる。あたしがやけに音楽関連の知識に詳しい事に驚いて、先輩のあたしを見る目は変わる。
だって、それはそうよ。あたしのお父さんは、ギタリスト『SHIMON』。
ソロでライブハウスを回って、3daysをソールドアウトにするギタリスト。アリーナやホールには縁はないけど、有名アーティストのレコーディングやライブに呼ばれ、その技巧だけであたしを食べさせてくれる、マニアなら知らない人はいないミュージシャン。
……そして先輩もギターを弾く。尊敬するギタリストは『SHIMON』なのだと聞かされて、あたしはなんだか複雑な気分に……なったのだった。
「音色、おかえり。久しぶりだな。また可愛くなった。おいで……ハグしよう」
学校から帰るとお父さんはキッチンに立っていてそんな事を言う。 見るとバットに粉やら卵やらパン粉やらを広げている。……コロッケ? コロッケを揚げようしているのかしら。
「おかえりなさい、お父さん。手が粉まみれ。制服汚れちゃうわ……はい、おかえりなさい」
あたしは黒いTシャツから入れ墨がのぞく、お父さんの身体をぎゅっと抱きしめる。久しぶり。……5日ぶり? 九州の方へツアーの助っ人に行っていたお父さん。
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