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その日からあたし達の関係性は激変した。先輩は休み時間ごとにうちの教室の前に姿を現し、懇願するようにしてあたしに頭を下げる。そりゃもう、哀れなぐらいに。
「頼むよ高階っ! 合唱コンクールの時、お前むちゃくちゃピアノ上手かったじゃんかよ! 俺、お前以上にピアノ上手いやつ知らねーんだよ! 俺がSHIMONになれるかも知れない大チャンスなんだよ! なあ頼む! 頼むからうんと言ってくれ!」
……周りの視線も気にせずに必死の先輩。あたしが断るなんて微塵も思ってなかったんだろう。だってあたしは半年間先輩に告白し続けた。大喜びでしっぽを振ると踏んでいたんだろうけど、そーゆーわけにはいきませんっ。
「あのね先輩。あたしはクラシック専門なんです。そりゃ譜面見たら弾く事は出来るけど、10日後にお金取れるパフォーマンスするのは無理よ。大体『GIBSON』なんて、高校生が出ていいところじゃないわ。学園祭か駅前ででもやってるのがお似合いよ。高校の軽音部が『GIBSON』でやるなんて、生意気っ!」
「分かってるよ! だから大チャンスなんだよ! あそこは客もSHIMON育てただけあって辛口なんだよ! だからお前じゃなきゃ音が成立しねえ! 頼む! 頼むから、俺と一緒にバンドやってくれっ!!」
「やだっつってんでしょ!? ……断るっ!!」
……そのうち先輩は、うちのクラスで『バンドやろうぜ兄さん』略して『バンやろ兄貴』なんて呼ばれだして、すっかりおもしろキャラ扱いになってしまう。あたしは大好きな先輩だからこそ、絶対に断らなければと思って、とにかく強固に拒否の姿勢を貫き通す。
でも攻勢はどんどん激しさを増して、 先輩はほとんどストーカーと言ってもいいぐらいの粘着ぶりを見せ始める。放課後はなんと家までついて来て、マンションの中まで入り込んで来ようとする。朝はマンションの下で待っている。あたしの気は休まらない。
今だってもちろん先輩の事は大好き。だから本当はお役に立ちたい。でもあのライブハウスはだめ。それにもっとちゃんとしたキーボーディストに頼むべきよ。あたしじゃ『GIBSON』のお客さんを満足させるなんて、絶対に無理なんだから。
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