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馬車は揺れるよどこまでも
魔法少女ひまわり組のダンス
王族の紋章付きの、とても上等な馬車に揺られ、ジョナサン・エルネストは半ば忘我の域にあった。
つい数時間まで、ジョナサンは幸福の絶頂の中にいた。
正直全然行きたくなかった。
折角夏休みに入り、フランチェスカと結婚式を挙げたばかり。
何でこの状況で、おっさん相手にコメツキバッタにならねばならんのだ?
貴方にしか出来ないことなんだから、頑張ってきてね?チュ♡
フカフカの荷台のソファーに対面しているのはさっきキスしてくれた奥さんではなく、メイドのリーゼロッテ・シュバルツだった。
「宮廷は、今までの常識から逸脱した伏魔殿です。くれぐれも油断なさらぬよう」
ふうん。まるで上の空の返答が帰ってきたので、リーゼロッテは眦を上げた。
「理解しておられるのですか。宮廷には冥府の神も魔王もおりません。なれど、ミロードにかかる危急さにおいて、その不穏さは前以上に膨れ上がっているのですよ」
「すまん。ちょっと幸せの余韻に浸っていたんだ。ヤバイのは解っているよ。俺はガラスの箱の隅で震えるネズミだ。その向こうでは蛇が鎌首をあげてるんだろ?ただ、最近の情勢が知りたい。俺が呼ばれた理由は解るが、その真意は解らない」
「現在宮廷は八千代の安寧にあります。しかし、絢爛な華やかさの下では、常に業火がくすぶっております」
「質問を変える。今現在、俺を殺したくてウズウズしてるのは誰だ」
最初からこう聞けばよかった。ジョナサンはリーゼロッテの持って回った言い回しに、不愉快さを感じていた。
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