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「ねぇ、原因は判りました?」
私を「表側」の裁判所まで連れていく事になっている下っ端検事は、そう言った。
「それが……マズい事になった。……原子力電池が壊れてる。多分、何か細工がしてあったんだと……思う」
「えっ??」
「良い報せと悪い報せが1つづつだ」
「悪い報せってのは、引き返すのも、向こうまで行くのも、他の基地や居留地に行くのも無理って事ですよね」
「うん。この型式の月面車は、一次電力源で生み出した電力を、一旦、蓄電池に溜めて、それでモーターを動かすタイプなんだが、実は、蓄電池に溜ってた電力だけで今まで動いていたようだ。その蓄電池の残り電力も持って2~3時間だ。……あぁ、2~3時間と云うのは、全電力を生命維持に回したら、と云う意味だ」
「で、良い報せは?」
「我々が原子力電池の故障による放射線障害になる確率は極めて小さい。なにせ、原子力電池の中から燃料の放射性物質が消えている」
「消えてる、って出発前に点検したはずですよね?」
「整備員も『奴等』に抱き込まれていると考えるのが妥当だろう」
下っ端検事は諦めの溜息をついた。
「手近な基地や居留地に助けを求めては?」
「救難信号を出してるが、多分、一番近い基地から助けが到着するまで蓄電池の電力は持たない。そもそも、助けが間に合っても、この状況では、誰が信用出来るか判らない」
ダークサイド・オブ・ザ・ムーンの荒野の中、一台の月面車が立ち往生し、それに乗っている男女各1名(ちなみに私も彼も同性愛者なので、彼と私の間に友情が成立する可能性は有るが、恋愛感情が生まれる可能性はほぼ皆無だ。我々の人生の残り時間が、もっと長かったとしても)は死を待つしか無かった。
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