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「何やってるんですか?」
「昔の恋人に遺言を……」
「じゃあ、ボクも……」
私は携帯端末からテキストメッセージを送信した。ここからでは、ネット回線も細いので、映像や音声を送るのは困難だ。
彼女は、元々、人工衛星の制御を専門にする工学部の研究者で、月面版・宇宙版のGPSに関する論文をいくつか書いて、博士号を取った。月や宇宙空間での衛星測位システムは、地球で使われているモノとは別の技術的課題が多々有り、彼女が考案した方法で、そのいくつかが解決されたらしい。
そして、何故か6~7年ほど前に、彼女は、彼女の専門分野でもなければ、一定の需要は有るが大きな成長は見込めない筈の太陽光発電関係のベンチャー企業の主任研究員になった。ただ、私もその頃、月の裏側に転勤になり、会う機会も減り、結局、それから1~2年後に分れる事になった。
「あれっ?」
「どうしたんですか?」
彼女から、すぐにメッセージが返って来た。
月面車の型式、一次電源である原子力電池の型式、修理用の器具・備品の有無と、こちらの位置を問うてきた。
「いや待て、何のつもりだ?」
とりあえず、私は彼女が求めた情報を送り返す。
続いて、彼女から月面車を応急改造するように指示が来た。確かにこの方法なら、助かるかも知れない。……ただ、唯一の問題点は、この方法には太陽光が必要と云う事だが、今、ここは「夜」だ。
しかし、どう云う事なのだ?「大丈夫。太陽は、あたしが何とかする」とは?
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