失なわれし夜

1/9
前へ
/9ページ
次へ

失なわれし夜

『急に済まないが、私は、もうすぐ死ぬ』  それが、大学の頃から十数年付き合った挙句に、5年ほど前に分れた元恋人からのメッセージの書き出しだった。  書き出し……そう、この御時世にテキストオンリーのメッセージだ。  とは言っても、あいつの勤務地が分れた時と同じなら、回線の容量や速度が限られているので、仕方有るまい。  のっけから不穏なメッセージを読み終った後、あたしはすぐに解決策を思い付いた。  まずは、あいつの乗っている「車」の型式と、それに搭載されている「動力源」、必要な工具などの有無、そしてあいつの今の具体的な居場所を問うメッセージを送り返した。  返信はすぐ来た。  エクセレント(素晴しい)!!やはり、あいつの勤務地近辺で最も使われているタイプだった。もし、運命を司る神が存在するなら、あいつを生かしておくつもりらしい。  あたしは、あいつの車を改造する為の手順を調べて、それを書き写(コピペ)して、あいつに送った。  もちろん、最後に、こう書き加えるのを忘れなかった。 『大丈夫。太陽は、あたしが何とかする』
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加