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それから何を語り合ったのか。
雲が霽れ、夜になり、皓々たる月が天の中央に昇り、清明なる光が二人を照らした。
男は龍であった。菩薩の命に依るものでなく人となったのは、初めてのことであった。龍が請うたわけでも、翠巒が勧めたわけでもなく、龍苑寺には既に、龍の居場所が在った。龍は、池には帰らなかった。
そうして幾夜か共に語り過ごした頃。男は翠巒に「自分は龍である」と告げた。
翠巒は何も言わず、微笑浮かべたまま、ただ頷いただけであった。
龍は人のような名を持たなかったので、纏っていた衣の色から、「青龍」と呼ばれるようになった。
青龍は大変物知りだったので、翠巒が講話をする時は皆と共にそれを聞いていたが、読み書きを教える時などは、翠巒の手伝いをして子供達に教えるようになった。始めは警戒していた子供達もやがて「青先生」と呼んで親しむようになり、始めは畏怖していた大人達も、翠巒との語らいの中で見せる寛いだ青龍の姿に、次第に心を和らげていった。
そしていつからか、青龍の存在は、広く世間に知られるところとなった。
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