【1】 お話のはじまり

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【1】 お話のはじまり

 西の山の峰の池に、龍の棲み処があった。  毎日、龍は陽と共に空へ昇り、菩薩(ぼさつ)から(めい)を受けて雲と雨を操り、夜になると再び池の底に帰っていくのだった。  天から役割を与えられているということ、ただそれだけが、龍にとっての歓びだった。だというのに、いつからこのような思いを抱くようになってしまったのか、龍にもわからなかった。  龍は独りだった。  龍は、寂しかった。
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