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序章 電話
夜零時頃、和希から電話があった。声は酷く震えていて、泣いているのが電話越しで分かるほどだった。掠れた声で何とか伝えようとしているのを、俺は黙って聞いていた。時間にして数分ほど、和希はずっと泣いていたと思う。そうしてやっと言葉が出たと思ったら、その言葉は俺の思考を停止させるには十分すぎるほど衝撃的なものだった。
「ごめん、俺、志貴と絶交する」
なんで? という言葉は喉の奥で詰まって出てこなかった。ショックを受けて自室の床の上で黙って立ち竦んでいると、先に和希の声が携帯から流れた。
「別に志貴が嫌いとか、そういう理由じゃないんだ。志貴が大切だから、絶交しなきゃいけないだけなんだ」
俺は和希の言葉が理解できなかった。大切ならこれまで通り仲良くしていこうぜと言いたかった。けれど、何故か何も言えなかった。和希の声が異常に真剣だったからだろうか。一体何があったんだとやっと声を出せた。すると和希はまた涙ぐんだ。
「本当にごめん。数日後、俺はこの街を出るから。だから、志貴は俺のことなんか忘れて今まで通り生きて」
「この街を出る? 引っ越すのか?」
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