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少しの間が空いて、和希はそうかもしれない、と答えた。その声は酷く弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。窓が風でガタガタと揺れ始めている。
「そう、それでいいよ。引っ越すから、絶交しよう」
「なんで引っ越すってだけで絶交するんだ? それに、なんで急に引っ越しなんて」
俺は少し声が大きくなっていた。隣室で父母が寝ているのも気にせず、興奮して和希のことしか考えられなくなっていた。何も分からないまま和希と絶交してしまうなんてごめんだ。俺はただ理由を知りたかった。
「詳しくは話せない。でも、俺が消えるまでは普通に話しかけてくれていいよ」
消える、という言葉が嫌に耳に残った。消えるというのは、引っ越して遠くの場所へ行ってしまうという意味で合っているのだろうか。……まさか。
「お前、死のうとしてるんじゃないよな……?」
自分の声が最初の和希と同じくらい震えているのが分かる。確かめるようにゆっくりと言葉を紡ぎ、相手の答えを待った。窓に水滴が付いていて、外は雨が降り始めている。
「違うって。さすがにそんなことしないよ」
「じゃあ、なんで」
しつこく聞き出そうとした。今、電話の向こうにいる和希が、電話を切った瞬間に消えてしまうような気がして、通話を切りたくなかった。ずっと彼の声を聴いていたい。このまま朝を迎えるまで通話を続けてもいいと思った。
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