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ふと、電話の向こうから微かに水の流れる音が聞こえた。それは水道の音とは違い、川や海のような、大量の水が流れているような激しい音。外は雨が降っているから、水位が上がり始めているのかもしれない。
「和希、お前、今どこにいる?」
電話の向こうから和希の声は返ってこない。水の音だけが徐々に激しく聞こえてくる。足の爪先の方から込み上げてくる何かを必死に押し殺すように、俺は声を少しずつ大きく張り上げた。
「おい、どこにいるんだ!」
怒鳴ると、向こうにいる和希はまた泣き出してしまった。おそらく、和希は今外にいる。しかも、川がすぐそばにある場所だ。この辺りにあるのは襟田川しかない。そこで何をしているのか分からないが、雨に打たれているのは間違いない。このままでは体調を崩してしまう。
「早く家に帰れ! 詳しいことは学校で聞く。今はとにかく帰るんだ!」
そこで何をしていたのか、俺には知る由もない。けれど、こんな夜遅くに川の近くから電話をしてくるなんて、普通は考えられない。そこで何かあって、そのせいで俺と絶交すると言い出したのは確かだろう。明日学校で話を聞き、絶交の理由を教えてもらう。最後に一言「わかった」と言うと、電話は一方的に切られた。無音になったスマホを見つめ、机に置くとベッドに転がった。すっかり目が覚めてしまって寝付けない。それでもぎゅっと目を瞑り、自然と意識が薄れるまでじっと待ち続けた。
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