真夜中のオシゴト

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美紀は7時になるのを待ちながら、淡々と仕事をこなした。 7時になるのを今か今かとこまめに時計を確認しながら。 7時きっかりになると、少し遠いところからドアが開く音がした。 「ようやくお目覚めね、寝坊助さん」 美紀はニヤリと笑いながら呟く。 「おはよう」 オールバックがよく似合う、長身のドクターが颯爽と受付に来た。 彼は唯一のドクター、黒野亮介だ。髪型と鋭い目付きが、クールな印象を与える近寄り難い色男だ。 「おはようございます、黒野先生。今日はアレが届いてるみたいですよ」 美紀が言うと、黒野は少年のように目を輝かせた。 「おぉ、それは急いで確認しないとな!」 黒野は嬉しそうに薬品室へ向かった。美紀はそれについて行く。 黒野は薬品室に入るやいなや、冷蔵庫を開けて保冷カバンを近くの机の上に置いた。 「今日はどのパーツも欠けることなく入っていればいいが……」 黒野は今にも鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌で、保冷カバンの中身を机の上に並べていく。 「素晴らしい、全部揃っているじゃないか!」 キラキラした目で内臓や血液が詰まった箱を眺める黒野は、カブトムシでも見つけたような少年の様だった。 少なくとも美紀はそう思った。 黒野は内臓をワゴンに乗せ、血液だけしまうと美紀を見た。 「今夜は山根千穂さんの手術をするぞ。11時にだ」 「ふふ、分かりました」 黒野は美紀の返事を聞くと、ワゴンを手術室に運んだ。 山根千穂というのは、齢40にして癌が広範囲に転移してしまった末期患者だ。 美紀は山根の病室に入ると、今夜手術する事を伝えた。 「話は聞いてましたけど、本当に急なのですね……。分かりました」 山根はすんなり受け入れた。 「ご理解頂き感謝します」 「話は聞いていましたから……。それにどうせこのままでいたら死ぬのは分かっています。でしたら1%でも、希望に賭けたいです」 山根は期待と不安が入り混じる目で言った。 「先生を信じてください。では、時間になったらまた来ます」 「よろしくお願いします」 山根は深々と美紀に頭を下げた。
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