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「九重ー…次は九重です。」
車内アナウンスでハッと目をさますと、太郎は端っこの席で壁に頭をもたげて眠っていたようだった。夢を見ていたのだ。今見たゆりも全て、夢だったのだ。あたりにはまばらではあるものの人が乗っていた。少しの安堵と新たに湧いたもやりとした感情を心に感じながら、路線図を確認する。目的地の館山という駅は九重の次に駅だった。
再び荷物の確認をし、時計を確認する。9:30だった。もちろん夕方では無い。ふと、車窓に目をやる。
ひまわりが咲いていた。狂ったように咲いていた。少しの風で波のようにうねっていた。
夢で見たのと同じ光景に、太郎の心臓はまるで一つの生き物かのようにどきんどきんと跳ねていた。真っ赤な夕焼けこそないものの、ゆりの白い腕の先に見たあのひまわりと同じだった。
「館山、館山です。」
目的地はそのひまわり畑のすぐそばの駅だった。
まだ跳ね続ける心臓を連れて、リュックを背負い直してホームに降り立つ。
じいじい、じいい。蝉が一層うるさく鳴き始めた。
ゆりの、家のある駅だった。
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