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歪み
~速水勇輝~
午前10時、奏多の家の前にて
「ふぁー、おはよ。」
俺と日向美と由梨と運転手さん、この中の誰よりも遅く、まあ要するに最後に来た奏多は欠伸混じりに涙目になりながら手を振る。
「すごい眠そうね。よく眠れなかったの?」
日向美は心配そうに奏多の顔を覗き込んでいる。
「んー、あんまり寝てないけど慣れてるから大丈夫だと思ったんだけどなーー。」
慣れている、と言うのはきっと高校に入ってから帰宅部なのをいい事に色んな部活に散々助っ人として呼ばれていたからだろう。
何度か大丈夫なのかと声を掛けたが、本人は楽しいからいい、との事だった。
小さい頃の弱っちい奏多は何処へ行ったんだろうか。
「こんな時に寝ずに何してんだよ。」
「ちょっとやる事があってな。」
目の下には薄らと隈が見える。下手したら一睡もしていないのかもしれない。
ーー奏多は変わった。俺達が死にかけたあの日から。
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俺があの後病院のベットの上で目を覚ました時に病室に居たのは奏多だけだった。
俺が目を覚ました事に気が付くこともなく微動だにしなかったし、俯いていて顔もよく見えなかった。
いつもの奏多とは違う、何か異変を感じた。
「奏多ーー?」
奏多が俺の声にピクっと反応をしてゆっくりと顔を上げる最中に、その顔は悲しんでいるのだろうか、怒っているのだろうかと、色々想像している内に
「お、目覚ましたんだ!」
と、にこりと笑いこちらに近ずいてきた。
さっきまでの雰囲気からはまるで想像出来ないその表情にキョトンとしている俺を気にもとめず奏多はぺらぺらと話し出した。
あの後どうなったのか、何故病院に居るのか、そんな事を一通り説明し、一頻り話終わると今度は、「あっそうだ、皆を呼んでくるね!」と俺に話す隙も与えずくるりと後ろを向き病室から去ろうとする。
「あっ、ちょっと!」
俺の呼びかけに振り返った奏多に、何であんなに悲しそうに俯いてたのーー、と聞こうと手を伸ばして躊躇う。悲しそうだなんて気のせいかもしれない、だってあんな明るく話していたじゃないか。
そんな事を考えて口を噤んだ俺を見てふと思い出したかのように奏多が口を開く。
「そうだ、あのさ、これからはーー」
軽く微笑み、少し瞳を揺らして静かな声で言った。
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