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俺にはそれが、強がりと言うよりは自分に必死に思い込ませようとしているように見えた。
俺が空気を悪くさせたせいでこうなっているんだと思うと話を変えたくなった。
「んで、ここは何処なんだよ?」
車が止まっているのはコインパーキングのようだが、辺りは統一された古風な街並みが続いてる。灯篭の様な雰囲気のある街灯が等間隔で付いていて明るさも十分あり、観光に持ってこいといった感じの場所だった。
ただ、ここまで綺麗に整備されているにも関わらず人の気配が異様に少なかった。
「ここは温泉が有名な観光名所だよ。こんな時には人通りは少ないみたいだけどーー。」
由梨の後に日向美が付け足す。
「地熱がなんとかとか奏多が言ってたけど、要するにここが他の場所に比べたら暖かいって事らしいわよ。」
俺が聞きたかったことは何となく分かった。が、ひとつ分からないことは、
「じゃあ、俺達はこれから何すればいいんだ?」
特に考えもせずに口走った後にはっと思う。奏多がいないとつくづく何にも出来ないんだなと。
自分では行動せずに頼りっぱなし。何がもう少し頼ってほしい、だよ。こんなに頼りないやつなんて何にも出来ないよなーー。
拳を握り、奥歯を噛み締める。無力な自分が憎い。さっきからずっとイライラしていたのは、自分のせいだったんだ。
「それはーー。」
「えっとーー。」
二人とも口ごもる。もしかして何も言われてないのか?
「お、お散歩しよ!気分転換に!」
由梨が咄嗟に思いついたであろう提案をする。気を使わせてばかりだな。
「せっかく観光名所に来たんだし、歩いてたら何か見つけたりするかもーー。」
徐々に自信をなくしたように声が小さくなっていき、不安そうな顔をする。由梨のこんな顔は見たくない。
そう思うとなんだかさっきまでイライラしていた自分が馬鹿らしくなった。
「そうだな、行こっか。」
頭をぽんっと撫でて笑いかけると花が咲いたように笑い、「うん」と返事をする。
俺は何をしていたんだろう。俺のせいで由梨に暗い顔をさせて、気を使わせて。こんなことがしたかった訳では無いのに。
由梨に笑ってほしい。勿論、奏多に頼って貰いたいのは変わらないが、その時に由梨にあんな顔をさせるようでは意味が無い。
さっきまでのモヤモヤした気持ちがふっ切れた俺はさっきよりも軽い足取りで街を歩き出した。
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