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「大丈夫ですか?」
私が途方に暮れていると、小さなおじさんが声をかけてきた。張り付いたような笑が私には不気味に感じたが、一様恩人ではあるので、立ち上がるともう一度頭を下げてお礼を言った。
「ありがとうございました、もう大丈夫なので…」
「そうですか?それでは」
振り返り、去っていこうとする姿を見送ることも無く、奏多の方を向くと、小さなおじさんがふと立ち止まり、「あ、そうだ」と言うと、首だけで振り返り、先程よりも一層不気味な笑顔で
「お大事に」
そう言い残して歩いて行ってしまった。
その声が何故か耳から離れず、しばらく呆然としてしまった。
はっと我に返り、奏多の近くにしゃがみ込む。
「奏多!起きれる?」
「うぅ…ひ、なみ…?」
「よかった!今車を呼ぶから!」
携帯を手にし、由梨に電話をかけようとしている間に奏多は体を起こしていた。
「大丈夫、歩けるから…」
そう頭を抑えながら言うと、よろよろと立ち上がり、歩きはじめた。
「無理しないで!また倒れちゃうよ?」
慌てて追いかけると、直ぐによろけて倒れ込んでしまった。
「ほら!じっとしてて!」
「はぁ…はぁ…ごめ、ん」
地面に座り、俯いて息を切らしながら謝ると、直ぐに意識が遠のいてしまった。
「待っててね…」
独り言をつぶやくと、由梨に電話を掛け、車をこちらに呼んでもらった。
*
車が到着すると、中から勇輝が出てきた。
「おい!奏多!しっかりしろ!」
慌てて奏多の元に駆け寄ると、肩を担いだ。
「すげー熱だな…」
奏多を担ぎながら、車に乗り込む間際に不安そうに呟いた勇希の声が聞こえた。
シェルターに戻るまでの車内では、誰も喋ることは無かった。
シェルターに着くと、部屋の中をを軽く片付けると、簡易の寝床を作り奏多を寝かせた。
「悪い…思ったより、体調が悪かったみたいだな…」
苦しそうに息をしながらも、力なく笑いながら言った。
額に濡らしたタオルを置くときに触れた温度は、先ほどよりも熱く感じた。
「俺が、俺が変に機嫌損ねたせいで…」
隣に座る勇輝は下を向き、膝の上の拳に力を込めながら悔しそうに絞り出すような声で言った。
「何、言ってんだよ。お前が機嫌損ねるのなんて、いつもの事だ、ろ…」
笑いながらそう言い終わると同時に眠りに落ちてしまった。
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