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「うーん、ちょっとバランスがおかしいかな……。」
接骨院で沙織は独り受付に座りながら紙に文字を書いていた。上手く書けず、書いては消してを繰り返していた時だ。閉まっているシャッターを叩く音が聞こえた。
亜美も帰り、入り口のシャッターは完全に閉まっている。不思議に思いながらシャッターへと近づくと、声をかけた。
「どなたですか? もう終わりなんですけど」
「沙織さん、僕だよ。晴仁です」
「晴仁くん?」
ガラガラと音を立てながら開けられたシャッターの向こうには、晴仁が上着のポケットに手を入れながら立っていた。
「どうしたの? 携帯にかけてくれれば良かったのに」
「前を通ったら車があったから」
「入って」
晴仁はゆっくり中へ入ると、沙織は再びシャッターを閉めた。誰もいない院内を歩きながら、晴仁は受付に置かれた紙に気がついた。
「これは?」
「ああ、それ? 開業して四月で四年になるから、何か患者さんにお礼がしたくて。イベントでもしようかなーなんて」
「へーそれのチラシ?」
「そう。まだ何やるかは決めてないんだけどね。今亜美ちゃんと相談中で」
「そうなんだね。もう四年になるんだ」
「そうなの。あっという間だったなぁ。初めは独りでやっていたんだけどね、全然患者さんも来なくて。一日一人しか来ないとか当たり前だったんだ」
「頑張ったんだね、沙織さん」
「チラシ配ったり体験会開いてみたりして、少しずつ患者さんが増えていったんだ」
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