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「……沙織さんの大切な四年間が詰まっているんだね、ここには」
「まあねー。開業が夢だったから。今は長く続けることが目標かな。……晴仁くん?」
後ろからぎゅっと力強く抱き締められると、肩によりかかる晴仁の頭を優しく撫でた。
「何かあった?」
「何もないよ……。沙織さんに会いたかっただけ」
「私も会いたかった」
「沙織さん、今幸せ?」
「うん。すごく幸せだよ」
「そっか」
晴仁はゆっくりと沙織から体を離すと、手の先だけを掴むように手を繋ぐ。不思議そうに顔を傾げた沙織に、晴仁は謝った。
「……ごめん」
「何が?」
「沙織さん、僕と別れて下さい」
「……冗談、なんて言わないよね」
「うん。本気だよ」
声が震え、体を支える足には上手く力が入らない。なぜそんなことを突然言われたのか、沙織には分からなかった。
「な、なんで急に……? 私何かした?」
「沙織さんは何も悪くないよ。全部僕のワガママだ」
「嫌……だって決めたんだから。もう絶対晴仁くんから離れないって……ずっと一緒に居るって」
「……ごめん。僕はやっぱり結菜さんと結婚をする。今更何を言っているのかと思うかもしれない、でももう決めたんだ」
「……旅館のため?」
「…………。」
「もしかして……お母さんに何か言われたんじゃ。私の接骨院のこと……それでそんな」
「沙織さんは関係ないよ。旅館のため、自分の将来のために、もう決めたんだ」
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