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「おはようございまーす」
いつもなら返ってくる返事がなく、不思議に思いながら亜美は院内へと入る。受付に沙織の姿が見え、ほっとして声をかけた。
「先生、居るなら返事して下さいよ。誰もいないのかと思ったじゃないですか」
「……ごめん、おはよう」
「どうしたんですか!? その声……それに瞼も」
泣きすぎて枯れ気味の声と腫れた瞼、目の下にはクマもあり、あまりのひどさに亜美は驚いた。
「まさか、また彼氏と何かあったんですか? より戻って幸せそうだったのに」
「フラれたの……。昨日の夜」
「フラれたって……何でですか?」
「旅館を継ぐために婚約者とやっぱり結婚するって。でも……嘘だと思う。私のためなんじゃないかって」
「それどういう意味ですか?」
「この前彼の母親が来たでしょう? あの時言われたの。別れないとよくない噂を流すって。接骨院の評判が落ちてもいいのかって。たぶん彼はそれを聞いたんだと思う」
「それで……先生のために婚約者と結婚するからって別れたってことですか?」
「私が思うにだけど……たぶん。もしかしたら本当に旅館のためなのかもしれないし、本心は分からない」
「それで!? 先生はちゃんと別れたくないって言ったんですか?」
「……言えなかった。晴仁くんの目を見たら、何を言っても気持ちは変わらないこと分かってしまったから」
「先生……。」
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