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亜美は悔しそうに眉をひそめながら、唇を噛み締めた。目の前にいるボロボロになった沙織を慰めたいのに言葉が見つからず、しばらくの間ただ黙って立っていることしか出来なかった。
「……ごめんね、心配かけて。患者さんが来るし、気持ち切り替えないとね」
「……大丈夫ですか? 本当に」
「大丈夫。私のプライベートな事情なんて、患者さんには関係ないんだもの。しっかりしないとね」
「…………。」
いつものようにシャッターを開ければ、外でそれを待っていた患者が中へと入って来た。笑顔で挨拶をしながら治療をする沙織を、亜美は痛々しくて見ていられなかった。
「それじゃあ、お昼行ってきますね」
「いってらっしゃい」
「先生もちゃんと食べて下さいね」
「うん」
亜美が出て行った瞬間、沙織の目からは涙が溢れた。拭いても拭いても頬を涙が伝い落ち、嗚咽が止まらない。
「……っ……う、ダメ……いいかげん……強く、ならないと」
午前中患者さんに大丈夫?って、何度も聞かれてしまった。プロ失格だ。私が失恋したからって、治療に影響してはいけない。笑顔で接しなければいけない。
そんなことは当たり前だ。でもその分独りになると涙が止まらない。我慢してる分、辛くて苦しくてすべてを投げ出してしまいたくなる。
フラれるのって辛いな。私は晴仁くんにこんな辛さを味わわせたのか。これはその報いなのだろうか。泣き止まないと、そう思うほど涙は溢れ止まらなかった。
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