第一章 視点:鈴鳴涼樹

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「偽薬武装が生まれた事で、偽薬攻防は俺たち人間側が勝利し、生活圏を確保することが出来た。抑制し、その感情を表現する理性的な行動が出来る、感情を抑制出来た存在である俺たち人間が勝ったんだっ!」 「その割りには、理性喪失体の数は減っていかないのでありますな」 「だから今俺たちは、理性喪失体の殲滅戦(エクスターミネーション)をしてんだろうがよっ!」  激情と共に、教官の手にした大剣の切っ先が、自分へと向けられる。 「理性的な行動が出来る俺たちが正しい人間の在り方である事に、間違いはねぇんだ! その証拠に俺たちは、従来の、人としての形を維持している! だが感情を抑制できなかった、理性的な行動が出来ねぇ理性喪失体はどうだ? 俺たちのように従来の人間の姿を維持できていねぇじゃねぇかっ!」  教官の言葉に、自分はただ頷く他ない。  自己不認識問題を発生させ続けたためだと言われているが、理性喪失体は自分たちの様な人間の形を維持しておらず、体の一部、または全身が変異しているのだ。その異形は、神話に出てくるケンタウロスやマーメイドを想像してもらえればわかりやすい。  あたかも見えない手を伸ばせるようになったのが自分たち人間で、体外の物質を自分の体に取り込んで自分の体を変異させたのがそれ以外の理性喪失体。  自分たちとは全く違った進化をした人間が理性喪失体と、そう言ってもいいのかもしれない。  そうした異形の個体は多数確認されており、中には簡単な会話が出来る個体も存在しているらしいが、ほとんどの個体は人間との意思疎通が出来ない。そのため理性喪失体と交渉を行う事は難しく、共存することは不可能だ。理性喪失体の生活圏に、縄張りに入った途端、人間はその人外の異形へと変貌した理性喪失体の脅威にさらされる事になる。また全ての理性喪失体は自己不認識問題を今でも抱えているため、死ぬ間際に自爆される可能性もあり、偽薬武装を使用して早急に殲滅する必要があった。
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