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そのため理性喪失体を殲滅するための戦いが偽薬攻防以降全世界で繰り広げられており、それに必要な偽薬武装の重要度が増していった。すると必然的に偽薬制御装置を埋め込み、偽薬制御棒を開発する重要性も増し、脳や脊髄に関係する手術を行うため、医療機関の発言力が増加。今では行政から教育、治安維持活動を含めて、国の運営などは最高機関である『病院』が行うようになった。それは、この日本という国も例外ではない。
理性喪失体を殲滅するための訓練学校も建てられ、その一つが今、自分がいる第二十三区訓練学校という事になる。
……と、自分は訓練学校で教官に教わったのであります。
確かに自分が『前線』で見て、戦った理性喪失体の姿は、自分たち人間のものとはかけ離れすぎていた。学校で習った通りだった。
「教官の言う通り、理性喪失体は自分たちとは全く違う姿をしていたのであります」
「なら、何故また帰って来た?」
憤怒に染まる教官の瞳が、自分を射抜くように見つめている。
「もう一度聞くぞ? クソガキ! 何故理性喪失体を殺さなかった? 何で再訓練なんかになりやがった? この日本で訓練学校が設立されて以来、最優秀の総合成績で学校を卒業した最優秀成績保持者(タイトルホルダー)であるテメェが、何でだっ!」
教官の怒号が、自分たち以外誰もいない校庭に響き渡る。その激情に貫かれながらも、自分は平然と言葉を紡いでいく。
「それは、訓練学校で教えられた理性喪失体の姿と現実の姿との間に、乖離を感じたからであります。教官」
燃え盛る炎のように激昂する教官とは対照的に、波一つない水面のように平坦に、自分は自分の考えを口にした。
「自分は、理性喪失体を、自分たち人間とは違う存在だと教えられてきました」
「事実、そうだったろうがよ!」
「ですが、自分たちに追われ、泣き叫んでいた理性喪失体の姿は、自分たち人間が同じ状況に陥った場合にも、全く同じ感情表現をするものだと考えられるのであります」
激憤する教官に、自分は淡々と言葉を紡いでいく。
「ならば、自分たちと同じような感情表現が出来る理性喪失体は、自分たちと同じ人間なのではないのでありますか?」
「……そんなくだんねぇ事を確かめるために、理性喪失体の殲滅戦を拒否したのか?」
「そうであります」
教官の問に、自分は抑揚なく頷いた。
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